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体質と環境を考慮する東洋医学には、現代栄養学にはない特色があります。古代中国では、自然界に存在する万物は、木・火・土・金・水という性質の異なる五つの要素によって構成されていると認識して、自然界の現象はすべてこれらの要素の作用と環境に依っているとしました(五行説)。そして、私たちの心身は自然と一体であるとみなして、人間の生命活動と広い概念の五臓の働きも五行説で分類しました。
つまり、私たちの体は、春は肝、夏は心、土用(特に盛夏)は脾、秋は肺、冬は腎が季節に従うものとし、その時季の食がそれぞれの活動を補うのです。また、食べ物は味や色を重んじて、春は青・酸っぱいもの(酸)、夏は赤・苦いもの(苦)、土用(四季ごとにある)は黄・甘いもの(甘)、秋は白・辛いもの(辛)、冬は黒・塩辛いもの(鹹)を食べるのが良いと考えました。米や麦といった穀物、杏や桃などの果実類もそれぞれに季節を重んじますが、たとえば海産物では、冬はイワシ、牡蠣などを食事に取り入れて過ごすことが健康の秘訣と考えます。それは、冬は寒さが大敵で、生命力や足腰・骨格、排尿・排便を正常に保つ腎の働きが弱まってしまいがちなので、心穏やかに体力の消耗を避け、温かくし、適度に塩辛いもの、すなわちミネラルの多いものを食べるのが良いからです。
さらに、食べ物の性質を体験的に寒涼性と温熱性の五つの性質に分類し、寒証の人は温熱性のものを、熱証の人は寒涼性のものを中心に摂ると良い、暑いときには寒涼性の食べ物を摂り、寒いときには温熱性の食べ物を中心に摂るのが良いと考えました。すなわち、暖かい地域で収穫で きるキュウリ、ナス、トマト、スイカ、メロンなどの野菜類は私たちの体を冷やして鎮静・消炎の作用があるので、暖かい時期に食べ、のぼせ症や高血圧症の人に良いと捉えます。一方、寒い地域で育つカボチャ、ネギ、タマネギ、シソ、ダイズなどの野菜類は体を温めて新陳代謝を亢進するので、寒い時期に食べ、貧血や冷え症の人に良いのです。 |
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| 池上文雄プロフィール:薬学博士・薬剤師。千葉大学名誉教授・グランドフェロー・特命研究員。一般社団法人日本薬用機能性植物推進機構理事、一般社団法人日本国際薬膳師会顧問。専門は薬用植物・生薬学や漢方医薬学。「地球は大きな薬箱」をモットーに、薬学と農学の融合を目指し、健康科学を研究。著者・監修に「不調を食生活で見直すためのからだ大全 NHK出版」「図解 山の幸・海の幸 薬効・薬膳事典 農文協」など。 |
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