古くから日本人の生活の中には、たくさんの「自然の恵み」、とりわけ植物が役立てられています。遠く縄文の時代以前から自然に沿った暮らしをして、今日でいう野菜や豆類、穀物と呼ばれる身近な植物をエネルギー源として食べていたと思われます。そして、長い年月を経て、それらの野生の植物を栽培することを覚え、さらには品種改良を行い、食材として食事に取り込むことの重要性を認識するようになりました。さらに、大陸から伝わった伝統医学と呼ばれる文化を吸収して、その知恵を日々の食事にも取り入れてきました。

 食べ物は薬と同じように健康にとって大切なものという考え方の歴史は古く、中国の古医書『黄帝内経』には、「薬食一如」、「食薬同源」という考えが記載されています。食事と薬の源は同じ、すなわち「食べ物は薬と同じように体に作用する」という中医学や薬膳に共通する伝統的な食養生です。西洋医学の祖のヒポクラテスも、「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」と述べています。東西文化は異なっても、健やかな生活を送るうえで最も大切なのは食養で、健康は食事からという考えは人類皆同じなのです。

 中国伝統医学が我が国に伝わった後に独自の医学として発展してきた漢方(漢方医学)では、食べられるものは全て薬です。病気のときに毎日続けて食用あるいは飲用しても安全で効果のあるものは、特に慢性の病気を予防または治療する場合には最適です。例えば米について述べると、漢方薬ではうるち米の玄米(粳米)を生薬として用います。性味は甘・平で、補気・健脾・止渇の効能があるので、胃腸を調え、元気をつけ、体液を補うため口渇や下痢に用いられます。

 2013年に伝統的な日本食(和食)がユネスコの無形文化遺産に登録されました。長い歴史の中で、日本人が培ってきた野菜や穀物を主とした食に関する社会的慣習が評価されたといえます。私たちは常日頃から滋養のある食べ物を日々の食事として摂りいれているのです。
池上文雄プロフィール:薬学博士・薬剤師。千葉大学名誉教授・グランドフェロー・特命研究員。一般社団法人日本薬用機能性植物推進機構理事、一般社団法人日本国際薬膳師会顧問。専門は薬用植物・生薬学や漢方医薬学。「地球は大きな薬箱」をモットーに、薬学と農学の融合を目指し、健康科学を研究。著者・監修に「不調を食生活で見直すためのからだ大全 NHK出版」「図解 山の幸・海の幸 薬効・薬膳事典 農文協」など。


<掲載履歴>
Vol.1 食は薬なり

トップページへ▶︎