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中国の漢時代の『神農本草経』、明時代に李時珍が著した『本草綱目』という本を紐解くと、両書共に中国の伝統医療に用いられる自然由来の薬物、特に多くの植物が記載されています。例えば、玄米や小麦といった穀物、小豆や大豆などの豆類、ニラ、ニンニクのほかにショウガ、ダイコンのような根菜類、ウリ、キュウリなどの果菜類などが収載されています。日常の食事に供される食材が、漢方薬と関係が深いことがわかります。医在厨房という言葉がありますが、台所で調理して食べられる漢方生薬がたくさんあることを示しています。
食品を調理して食べることは、漢方で薬を煎じて飲むことと同じです。ひと手間を掛けて調理して食を楽しむことは、漢方薬にも通じるところがあります。美味しくて良い香りがする食品は食欲を誘います。漢方薬も然りで体にとって良いものは良い味がして飲みやすく、煎じている間の香りも治療の一環といわれます。
日本は南北に長い島国で、そして太平洋側、日本海側という異なった気候の地域を持っています。したがって、地域によりたくさんの特徴ある野菜が、旬という美味な時期を私たちに与えてくれます。先人はこのような野菜の驚異的な働きを薬とみなし、その薬効を活用してきたに違いありません。生まれ育った土地のものを食べることは地産地消、すなわち「身土不二」といわれ、食事を通してその薬効を享受しているのです。これこそが、自然と共生した最も大切な食養です。
例えば、福島県会津地方には厳しい気候、風土のなかで古くから親しまれ栽培されてきた伝統野菜のひとつに「会津丸ナス」があります。焼く・煮る・炒める・茹でるなど何にでも合う美味しいナ スです。果実の93%は水分と糖質ですが、食物繊維に富み、ナスニンやコリンといった機能性成分を含むので、血圧やコレステロール値を下げる、動脈硬化を防ぐ、胃液の分泌を促す、肝臓の働きを良くするなどの効果があります。蔕や皮の黒焼き粉末は解毒薬になり、食中毒、じんま疹に服用します。
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| 池上文雄プロフィール:薬学博士・薬剤師。千葉大学名誉教授・グランドフェロー・特命研究員。一般社団法人日本薬用機能性植物推進機構理事、一般社団法人日本国際薬膳師会顧問。専門は薬用植物・生薬学や漢方医薬学。「地球は大きな薬箱」をモットーに、薬学と農学の融合を目指し、健康科学を研究。著者・監修に「不調を食生活で見直すためのからだ大全 NHK出版」「図解 山の幸・海の幸 薬効・薬膳事典 農文協」など。 |
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