東洋医学には「気」という概念があります。気の巡りは健康とも大きくかかわっています。小腸は第二の脳であるといわれるように、美味しいと感じると食欲が増進するのは、うまみや甘みを感じると脳が胃腸の働きを盛んにするためであることが最近解明されています。
 野菜好きの日本人は、食生活に変化と調和を持たせようとして、四季折々の多くの種類の野菜を求めてきました。早春の便りはフキノトウやナバナ(菜の花)から始まり、ウドや筍へと続き、食欲の秋はサツマイモやサトイモが庶民の味でした。中秋の名月に月見だんごに添えて、掘りたてのサトイモを供える習慣は、「芋名月」という言葉で残っています。
 古くは芋といえばサトイモを指し、平安時代の『和名抄』には漢名を芋などと記され、現在と同様に食用としていました。親芋に子芋、孫芋とたくさんの芋がつくことから子孫繁栄の象徴として、お正月や行事などの料理によく使われています。江戸時代の貝原益軒の『大和本草』には「山中の農多く植えて糧となし飢を助けてはなはだ民用に利あり」と記され、サツマイモやジャガイモの渡来以前は重要な飢饉食であったことがわかります。
 野菜に季節感が少なくなったことは、野菜に風情を感じなくなってしまったということですが、一方で、ほとんどの野菜が一年中食べられるということは、野菜が私たちの食生活にどれだけ大きく貢献しているかを示すものです。野菜の食味は、その野菜が生育した場所の日照、降雨量、気温や土壌などの栽培環境に大きく影響されます。近年では、ほとんどの野菜について品種改良が進み、栽培方法、貯蔵、輸送方法が改良され、一年中新鮮で品質の良い野菜が供給されています。それでもやはり、野菜の味にこだわった産地と品種の栽培が重んじられています。「身土不二」といわれるように、いつ、どのような野菜を食べるのが良いかといった食に関する興味と知識、さらに食を通した気の巡りが体調管理には大切であることなどを視野に入れて、野菜のある日々の食生活を楽しんで頂きたいと思います。
池上文雄プロフィール:薬学博士・薬剤師。千葉大学名誉教授・グランドフェロー・特命研究員。一般社団法人日本薬用機能性植物推進機構理事、一般社団法人日本国際薬膳師会顧問。専門は薬用植物・生薬学や漢方医薬学。「地球は大きな薬箱」をモットーに、薬学と農学の融合を目指し、健康科学を研究。著者・監修に「不調を食生活で見直すためのからだ大全 NHK出版」「図解 山の幸・海の幸 薬効・薬膳事典 農文協」など。


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