 奥平純子さん
千葉県船橋市在住。20代後半に水疱瘡を発症し体調を整えるため通った漢方医院で上海中医薬大学の中医師と出会う。古代中国哲学は中医学の基礎だと教えて頂き、機会があれば薬膳や中医学の基礎を学びたいと思うようになる。本草薬膳学院で資格取得。後期高齢の家族の健康を毎日見守りながら、いくつかのまちづくり活動に携わる。活動を通し薬膳を紹介。博士(工学):人間環境デザイン科学専攻にてまちづくりを学ぶ。文学修士:古代中国哲学専攻にて原典の文字の使われ方を考え読み込む大切さを学ぶ。国際中医師、国際薬膳師。

①薬膳を学なばれたきっかけは何ですか。
風邪をこじらせ咳が止まらない時に、処方された西洋薬を服用したことによる反応で、高熱、肝機能低下、全身の皮が剝ける、という経験をしました。そのため、風邪の初期への対処方や体質改善に興味を持っておりました。今振り返ってみると、直接のきっかけは父の看護経験でした。元気だった父が大病の時から季節の変化などほんの少しのことで大きく体調を崩すようになりました。毎日の食事や環境を整えることで少しでも改善の方向に進めたかもしれない、という思いがあります。
②古代中国哲学は中医学の基礎であるとのことですが、どの様な学問ですか、
薬膳との関わりも教えてください。
眺めているだけで意味が浮かんでくる楽しい漢字、西洋とは異なる考え方に惹かれ、中国哲学を専攻しました。天地万物の形成、人間の生死などの現象が起こる理由、すなわち物事の本質を解き明かすための理論を見いだす営みが哲学だと思います。現象を考えるためには日常生活から生じた言葉の意味を広げて使用する必要が出ます。例えば「気」は水蒸気を象ったものだったと言われています。古代中国(戦国時代以降の各学派)の人びとは、人間も世界も常に運動している気によって生成されるという哲学的理論を説明するため「気」の使用範囲を広げました。「気」は政治や芸術など幅広い分野の理論のなかでも重要な用語として使用されています。『黄帝内経』でも、気を医学的な気として引用し、人体生命を説明するようになったと言われています。私たちが薬膳師になる時に学んだ3つの目的(①正気の補養、②邪気を除く、③陰陽の調和)に使われている気や陰陽の語もこうした背景が基礎になっていると思います。
③まちづくり活動に携わり薬膳を紹介されていますが、
具体的にはどの様なことを行なわれていますか。
在住地域ではありませんが、もと都市計画研究室の仲間と市役所、住民との活動をきっかけに、健康文化のまちづくりを目標にしている里山地域で薬膳を紹介しています。3年前の台風による被害を受けた後、元気になるパンを出したいと地域のパン屋さんが希望し疎肝解鬱の食薬を用いたパンを、また冬にコロナ感染者数の増加が報じられるようになると「風邪予防の長ネギたっぷりエビカレーのサンドイッチ」や免疫力アップや喉のケアに良い薬膳パンを一緒に考えました。さらに地域の鍼灸院で薬膳教室を開いてほしいという強い要望もありました。デイサービスが併設されているため、高齢者の食事作りや介護に携わる人が関心を持って参加されました。
④食薬同源、おすすめの身近な食薬を教えてください。
おすすめの身近な食薬は紫蘇です。梅雨から残暑までの気候が厳しい季節に身近で体を守ってくれるので、気に入っています。紫の紫蘇はちょうど梅が実る頃、柔らかい葉になり梅干しの風味と保存力を高めます。湿気の多い季節の蘇葉の健胃をはじめ、蘇子、蘇梗を消化器系不調改善や気分改善などに利用できます。紫の紫蘇ジュースや青紫蘇の天ぷらは家族の好物です。紫蘇ジュースに使った後の紫蘇は、ゆかりにすることもあります。庭に植えておくとその周囲の植物に害虫がつきにくいように思います。
⑤今後はどんな未来図をお持ちですか?
中医薬膳の知識を実際に活かし、家族や自分の体調変化を早めに予測しながら健康を維持できるように努力していきたいと思います。また現在庭に混生しているスイカズラやヨモギなど里地で親しまれてきた多数の薬草も、薬膳の知識と共に生活の中に少しずつ取り入れたいと思っています。身近な食薬を用いた薬膳の知識を地域の人びとの要望に合わせて伝えることで、地域全体が元気になったら嬉しいです。 |