 堀井富代さん
静岡県富士宮市在住。東京の証券会社勤務後帰省、子育てをしながら紙加工会社に携わりのち会社経営。父親の病気悪化を機に離職、看護に専念。人生100年時代と言われる現代においての「食」の重要性と、自分らしい生き方とは何かを考え、60歳から「食」に関わる仕事を始めようと決心。2016年本草薬膳学院に入学、国際薬膳師を取得。2021年「甘味処 あんみつ わたなべ」を開店。二十四節気の食事を軸にくつろげる空間を提供。現在、地元の洋菓子屋さんと薬膳焼き菓子制作中。

①お父様の看取り看護に専念された間に「食」の重要性を思われ薬膳を学ばれたそうですが、
具体的な動機はありますか?
闘病中、体力の落ちた父やそれを看病する私たちの食を支えてくれたのは、母の手料理でした。母は常々「今食べている物が五年先、十年先の体を作る」と言って、朝から晩まで台所に立つ事を生業にしているような人でした。父は生前、食事に気を使ってくれる母に大変感謝しておりました。ようやく自分のことを考える余裕ができ、その先どんな人生を送ろうかと考えたとき、やはり大好きな「あんこ」と「食」を追いかけている自分と、それを食べて笑顔になっている誰かがいる風景しか想像できませんでした。本格的に調べているうちに、「薬膳料理」というものの存在を知り本草薬膳学院にたどり着きました。
②60歳という年齢は還暦にあたりリタイアを考える人もいますが、60歳から開業を志され、
お店を開店されています。
これから薬膳関連で起業を考えている方にアドバイスはありますか。
私の場合は、60歳という歳が一区切りでした。家庭や仕事など自分に課せられた人生を精一杯駆け抜けて、やっと自身が求める人生へシフトチェンジして行きましたが、そのタイミングはみんな違います。折角なら、どこかでチャレンジをしなくては勿体ない、常に目標は持つべきだと思います。起業するか否かはそれぞれですが、「薬膳学」は自分自身を高めてくれ、人を結びつけてくれる存在だと思います。
③「甘味処 あんみつ わたなべ」では、薬膳素材を取り入れたあんみつと、二十四節気の食事
を提供されていますが、どのようなメニューを工夫されていますか。
お店のメニューには、オリジナルのあんみつと季節のあんみつがあります。オリジナルは、たっぷりの小豆のあんこと、杏、京生麩、黒豆、クコの実に黒蜜を添えて。季節のあんみつは、夏は緑豆、秋は焼き芋、年末年始は白手亡豆、冬はミルク、春はヨモギをあんこ。それに合う果物のコンポート、白きくらげや蓮の実、ゆり根なども取り入れています。蜜もレモン、甘酒、ほうじ茶など全体をまとめる味を考えて添えています。二十四節気の食事は一汁一菜膳という、とてもシンプルではありますが、全て手作りの味噌や漬物を使い、毎週メニューを替え、地元の市場に出向き、旬の食材を取り入れ養生を考えた組み合わせにしています。食から季節を感じる楽しみと新鮮な感覚の味を工夫しています。
④食薬同源、おすすめの身近な食薬を教えてください。
「落花生」をお勧めします。富士宮市は富士山のふもとにあり、水や土壌に大変恵まれています。そんなぜいたくな土壌で育った落花生は、とても味が濃く甘くて栄養価も高いです。調理方法は、生の落花生を殻ごと一時間ゆでた後、多めの塩を入れてさらに30分ほどゆでるだけのいわゆる「ゆで落花生」です。この地方特有の食べ方だと思いますが、これを大量に作り冷凍保存して、行事があるたびに解凍して食べています。乾燥させた物は、砕いて「なます」にも入れます。
⑤今後はどんな未来図をお持ちですか?
開店して間もないので今はただお客様との会話を楽しんでいます。薬膳という言葉に興味を持たれて来店される方も多いのですが、意外にもその認知度は低く、誤解されている事に驚かされます。薬膳は奥深く、その学びは一生もの、そして正しく伝えていくことが私たちの役割だと思っています。少しでも身近に活かしていけるような情報をお届けし、安らげる空間を提供していける自分が、将来に存在していたら、それこそが私の幸せです。 |