 藤井真紀さん
広島市在住。米国留学中、移民の食文化や栄養学に興味を持つ。世界各地の郷土料理、家庭料理、養生食のフィールドワークを続け、薬膳の考え方をもとに、スパイス料理と中国料理の教室「暮しのスパイス」を主宰。国際薬膳師。中国茶、紅茶コーディネーター。NHK カルチャー広島および中国新聞カルチャー講師

①どのようなきっかけで薬膳を始められたのですか?
中国料理を学んでいるとき、とあるシェフから「宮廷料理は“薬膳”なのですよ」というお話を伺い、興味を持ったのがきっかけです。
高度成長期に育った世代ですので、外国から入ってくる多様な料理を享受してきました。一方で、文化や食生活が大きく変化していく時代にいることも痛感していました。そこで「日本人にとっての健康食とは何か」をテーマに、今まで実践してきた料理を、健康面から見直してみたいと思いました。関心を深めてきたスパイスも、漢方薬としての視点から捉え直す機会になりました。
➁世界各地の郷土料理、家庭料理を見聞されて印象的なことは何ですか?
薬味使いの違いです。スパイスも国や民族によって使い方が異なりますから、調理法が似ていても、結果として「似て非なる」お料理になっている点がとても面白いです。
でも最も印象的なのは、意外と素朴な食事内容です。日本人は、料理について少々気負いすぎでは?と思うこともあります。毎日の食を通じ、自分たちの文化やアイデンティティーをあるがまま受け入れていく姿勢は、私達も見習うべきかもしれません。
③モロッコ料理が料理教室のきっかけと聞きました。
20年ほど前に現地を訪問し、イスラム文化圏の暮らしに触れる機会を得ました。その時、風土と食の密接な関係を再認識したのが、その後の学びにつながったと思います。
陰陽五行説に基づく教えが生活や健康の智恵としてあるように、イスラム圏では宗教の規範が、生活全般の安全を守る術となっている点に感心しました。例えば「ハラール」は、宗教的意味合いだけではなく、食の安全を守るためにも役立っているように感じます。ちなみにモロッコのお料理は、スパイシーではありません。辛味スパイスの産地ではないし、乾燥した気候との関係もあります。スパイス使いも食材の味を引き立てるに留める一方、オイルやナッツを多用しますので、薬膳の視点で捉えると「潤いの食」になっています。
④食薬同源、暮らしの中の身近な食薬を教えてください。
瀬戸内のレモンはいかがでしょうか。近年、無農薬レモンも多く市場に出回るようになりましたので、皮を積極的に活用したいところです。「塩レモン」(塩漬けレモン)が流行しましたが、私はこれを梅干しのようだと捉えています。そしてレモンの皮は、グローバルな理気食材で、スパイスのようでもあると感じます。
⑤今後はどんな未来図をお持ちですか?
薬膳を学ぶ過程で常に興味をそそられてきたのは、食材のルーツや料理の発展です。それらを世界史と比較し、改めて探ってみたいと思っています。「薬膳を勉強していたら、歴史にも詳しくなってきた」「異文化について、宗教について、学びたくなった」。そんな風に、料理教室に来られる方々が感じて頂けるような展開ができれば面白いかなと思っています。温故知新の薬膳と中国料理の研究は、ライフワークになりそうです。 |